夫に褒められた料理

付き合いたての頃、夫の食生活はかなり不規則だった。朝食はコーヒーだけ、昼も適当にコンビニのパンを食べ、夜はよく飲み会に行っていた。

一方、私もまだ看護師になりたてで、慣れない夜勤にストレスが溜まり、朝からコンビニ飯をバカ喰いしたり、準夜上がりの3時にラーメン屋に行って、そのまま昼まで眠りこける生活を送っていたので、夫に負けず劣らず、凄まじい食生活を送っていた。

余談だが、夜中の2時にも関わらず、「あかん、お腹が空いてきた!」と言いながら、レトルトのハヤシライスを食べる私を見て、夫は結婚しようと思ったそうである(謎)。

 

しかし、夫と結婚した途端、自分でも驚くほど、きちんと自炊をするようになった。お弁当はもちろん、朝食もパン・米に限らず一汁三菜を心がけ、夜はタンパク質と野菜を多めに、お酒の肴になるものを出し、夫の嫌いな食べ物は絶対に出さない。これは、夫も目を見張る変貌ぶりで、「トマちゃんがここまで料理ができるようになるなんて、知らなかった・・・」と、何度も呟かれた。もちろん、私がきちんと食事を作るのは、「夫がいるとき」に限っており、私1人の時はこれまで通り、カップラーメンやら冷凍食品やらレトルト食品を愛用している。

 

さて、そんな私の料理の中で、つい最近、夫がしみじみと褒めてくれた料理がある。それは、おにぎりだ。知り合いの農家さんから買う普通のお米を、パナソニックのごく一般的な炊飯器で炊いて、スーパーで買った普通の塩で握った、なんの変哲のない塩むすびである。

塩むすびを頬張りながら、「俺さー・・・」とおもむろに口を開く夫に、「え、何?なんかあった?」と不安そうに尋ねると、「俺さー、トマちゃんの握るおにぎり、好きやねん」としみじみと言ったので、驚いた。「俺って、かための米が好きやん。俺好みの硬さの米を炊いてくれて、しかもサイズが小さくて食べやすいし、なんか好きやねんなあ、トマちゃんのおにぎり」と言う夫の言葉が、めちゃくちゃ嬉しかったのは言うまでもない。

 

私は手が大きいので、おにぎりを作るのがとても苦手だ。昔、中学生の頃、知人と家でBBQをすると言うので、妹と一緒におにぎりを作らされた。私の大きな手で握られた大きなおにぎりと、妹の小さな手で握られた小さなおにぎりが、一つのお皿に並べられた。私の握ったおにぎりの方が、どう見たって綺麗な三角をしているのに、妹の握った小さくて不揃いなおにぎりの方が、どんどん減っていった。キュッと引き締まった小ぶりなおにぎりの横で、ただただ大きな私のおにぎりは、不恰好で野暮ったい感じがして、惨めな気持ちになった。

 

きっと、その時の惨めな思いが、ずっと心に引っかかっていたのだろう。いつだったか、テレビで「美味しいおにぎりを作るコツ」というのをやっていた時、パッと反射的に見入ってしまった。有名なおにぎり屋さんのおばあちゃんが、おにぎりを握りながら、「力を入れずに、3回キュッキュッキュッと握るだけ。形は悪くても、海苔を巻いたら気にならないから、食べたときに米粒が解けることを意識して、簡単に握るだけで良い」と言っているのが目に入った。それを見て以来、私はその名前も知らないおばあちゃんの言いつけを守り、おにぎりを固めないように、ふんわりと小さなおにぎりを握ることを意識し続けてきた。

 

 

夫が朝早く家を出るときなどは、準備の合間につまめるように、朝おにぎりを握ってお皿の上に並べておく。夫は、服を着替えたり髪を整える合間に、リビングのテーブルにパッと手を伸ばし、ぱくっと食べている。夫におにぎりを握るたびに、「大きなおにぎりって思われてないかなあ」とか「可愛げのないおにぎりって思われてたらどうしよう」とか、きっと他人にはあまり理解されない心配をしていた私であるが、結婚6年目にして初めて、夫がおにぎりを褒めてくれた瞬間、私の中で、おにぎりに対するコンプレックスが、スッと消えてなくなった気がした。

 

得意な料理が、肉じゃがやローストビーフだなんて、狙いすぎている節がある。一方で、「得意料理は、おにぎりです」なんて、堂々と口にしたら笑われるかもしれないが、もしかしたらそれってかなり正解なのかもしれないと、最近思っている。ちょうど良い炊き加減のお米を、ちょうど良い塩加減で、ちょうど良い大きさで、時間のない朝やこってりした脂料理の合間に、なぜかついつい食べてしまえるなんて、かなり優秀じゃなかろうか。

 

もし、「好きな彼に料理でアピールしたいけど、自信がない」なんて人は、ぜひ「おっ」と思われるおにぎりを作れるよう、練習してみてはどうか。少なくとも、私は夫に褒められて一番嬉しかった手料理NO.1である。