ダスキンのセールスにて

先日、次男と家にいたら、チャイムがなった。いつものように宅急便かなと思ったら、ダスキンの訪問販売員だった。普段なら訪問販売はお断りするのだが、新人研修中と言うことで、ひとまず話を聞いてみることにした。販売活動の一種で、試供品を配っており、もしよければ使ってくださいということで、2種類のモップと換気扇フィルターと浄水器を取り付けて帰って行った。

 

私は訪問販売が苦手で、過去には新聞の勧誘すらうまく断れず、子供新聞をとる羽目になり、3ヶ月ほど月500円無駄に支払い続けたこともあった。なので、強引な営業に対しては、かなり引き気味で接してしまうし、なるべく近づかないほうだ。

しかし、今回迂闊にも訪問販売に対応してしまったのは、昔から私の実家ではダスキンにお世話になっているので、企業イメージがよかったからである。決して、お兄さんが若くて爽やかなイケメンだったからではない。

 

お兄さんは、「水道水の不要なものを取り除いてくれますし、操作も簡単です!」と自信満々に説明してくれた。しかも、目の前で、よくわからない検査キットみたいなものを取り出し、水道水の不純物が取り除かれていることを見せてくれた。心底感心して、「これならレンタルしてもいいかもなあ・・・」と、かなり興味を持った。

換気扇のフィルターは、おまけでつけてくれた。正直、換気扇に関しては、普段から換気扇フィルターを取り付けており、自分で掃除すればいいと思っていたので、そこまで興味がなく、「なんか得したなー」くらいの気持ちだった。一方、私は水道水の不純物を取り除くような魔法など使えないので、やはり文明の力に頼るしかなく、レンタルするなら浄水器の方だな、となんとなく考えていた。

 

 

仕事から帰ってきた夫に、早速話をした。夫はよく水を飲むので、浄水器にかなり関心を持ってくれるだろうと期待して、まるでお兄さんの営業魂が乗り移ったかのように、浄水器推しで話をしていた。ふんふんと一通り話を聞いた夫が、冷静に口を開いた。

 

「なんで浄水器が必要なん?日本の水道水ってかなり厳しい基準で検査されてて、健康には問題がないって言われてるレベルなんやで?どういう理由で、その不純物を取り除く必要があるのか、ダスキンの人は何か言ってた?」

「しかも、トマちゃんは、もともと水道水は絶対飲まないやろ?浄水器を取り付けたからって、水道の水をコップに入れて飲めるの?」

「別に反対はしてないけど、ほんまにいる?浄水器使うくらいなら、俺はペットボトルの水を常備しておくほうがいいと思う。災害の時にも助かるし」

 

そうなのだ、私は水道水が飲めないのだ。たとえ浄水器を通しても、水道から出てくる水が、どうしても飲めない。そして、水道水の不純物を摂取することで、どんな影響があるとかないとか、そんな話まではしなかったなあ。確かに、なんで浄水器が必要なのか、そこまで考えてなかった。ただなんとなく、浄水器があると、美味しい水が飲めるに違いないと思い込んでしまったけど、言われてみればそんなに必要ないかもしれない・・・。夫の言葉で、浄水器に対する熱は一瞬で冷めてしまった。

 

モップはすでに子供たちのおもちゃになっているし、浄水器もいらないとなると、お兄さんには申し訳ないけど、今回は断らないといけないなあ・・・と考えていると、夫が換気扇を指さして言った。

 

「こっちは何?これもダスキンがつけていったの?」

「そうそう。でも、換気扇の掃除は自分でできるし、フィルターも自分で交換するし、これはいらんかなと思ってるねん」

「なんで?性能についてはよくわからんけど、これでトマちゃんの掃除がラクになるなら、こっちの方が絶対にええやん。こっちはレンタルしたら?」

 

自分とは全く違う考え方で、換気扇フィルターを選んだ夫にびっくりしたし、なんだか嬉しかった。私は、自分でできることは自分で、というタイプなので、夫のような考え方は思いもつかなかった。しかし、夫が「妻の負担が軽くなるもの」という基準でモノを選んでくれたことが、最近家事と育児に追われて疲れていた自分の心に、少しだけジーンと沁みた。

 

 

 

夫は根っからの理系男子なので、かなり合理的な考え方をする。一方、私は文系女子なので、常日頃から感覚で生きているし、感情に左右されやすいほうだ。無駄を嫌い、効率を重視する夫を、時々冷たいなあと思うこともある。反対に夫も、物事を決めるときに感情を優先する私を、「合理的に考えればもっと簡単に解決できるのに、めんどくさい」と思っているに違いない。

 

大体の物事において、私の方が夫の合理性に助けられていることの方が、圧倒的に多い。夫の考え方はいつもシンプルで、無駄がなく、答えが簡単だ。いろんなことをいろんな方向から考えすぎて、こんがらがっている私を、「難しく考えすぎちゃう」と一瞬で解いてくれる。しかし、「トマちゃんって、人のことよく見てるね。確かに◯◯なら、そういう考え方すると思う。俺は、他人に興味がないからさ。そこまでは気付かんかったわ」と、合理的ゆえに見落としがちな情緒的な部分を、私がすくい上げることもある。

 

 

価値観が全て同じなら、きっと夫婦喧嘩なんてしなくなるのかな、と思うことがよくある。どんな時も同じ歩幅で、同じ方向に歩んでいけたら、すごくラクだろう。

でも、今日みたいに、その価値観の違いの中に、お互いを思う気持ちが見つけられると、すごく嬉しい。価値観の違いでぶつかった時に、どれだけお互いに譲り合えるか、どれだけお互いに思い合えるか。生まれた場所も、過ごした時間や環境も生き方も全く違う、赤の他人だった2人が一緒になるということは、そういうことの繰り返しだ。価値観の違いを煩わしく思わず、さらに夫婦になれるチャンスだと思おう。

 

ダスキンのお兄さんに、換気扇フィルターを注文するのが待ち遠しい。そして、浄水器を断る理由を話すのも、ちょっと楽しみだ。